ADL(Activities of Daily Living)という言葉は、立ち上がる・座る、歩く、風呂に入る、衣類を着がえるなど、私たちが日頃行っている日常生活動作の能力を示すものです。
ADL体操(ADL対応型高齢者体操)は、障害やADLレベルに対応して生活動作が回復・維持できるように配慮し、考え・覚え、声を出して無理なく酸素を取り入れながら認知症予防となる動きとその指導法をお伝えしていくことを理念としています。
自立高齢者にとって認知症予防・介護予防が大切であることは言うまでもありませんが、居宅や老人介護施設で生活する支援や介護が必要な高齢者にとっては、それ以上に生活動作の回復・維持となる介護予防と、ボール・タオル・ペットボトル・カップなどを活用しみんなで一緒に行うADL体操は、認知症予防にも貢献すると信じています。
2000年の4月から介護保険法が施行され、19年目となりました。その間に5回の見直しが行われ、特に大きな改革が施行された2006年度には、要支援・要介護者の機能と意欲の回復・維持に向けて介護予防の各サービスが導入され、自立している高齢者も介護に至ることなく暮らし続けていくために地域包括支援センターが設置され、介護予防事業が盛んになったことはご存知の通りです。また、2014年度の見直しでは、介護老人福祉施設や介護老人保健施設などへの入所制限が厳しくなり、在宅介護者の数が増えたことなどがあげられ、2016年度からは、介護予防・日常生活支援事業が創設・実施されました。
日本における介護予防、そしてこれからの認知症予防に関する計画は、概ね次のような経緯を辿っています。
平成元年に始まったゴールドプラン(高齢者の生きがいと健康づくり推進事業などを含む)と改訂された新ゴールドプランを経て、1999年(平成11年)からゴールドプラン21が展開され、活力ある高齢者像の構築と高齢者の尊厳の確保と自立支援が推進されてきました。
そして2013年(平成25年)からは、それに加えて認知症施策5か年計画、通称オレンジプランが計画され実践されているのです。その基本方針には、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることりましたができる社会の実現を目指すことがあげられています。
わが国は少子高齢化が進行し、2014年9月には、65歳以上の人口が総人口に占める割合、いわゆる高齢化率が25.9%となり、2015年9月15日では26.7%、同年の平均寿命は、男性は80.79歳、女性は87.05歳でした。そして2018年9月15日の時点の高齢化率は28.1%と過去最高を更新し、私達は高齢化率が25%を超える世界で唯一の「超高齢社会」に生きているのです。
しかしながら、高齢化率の地域格差は現在すでに存在し、高齢化率が非常に高い地域も全国あちこちの県に見られ、限界集落の存在も顕著になってきています。また、現在の健康寿命はといえば、男性が72歳、女性で74歳だと言われています。このような状況の中で、多くの高齢者が自立した生活を続けることでき、要支援や要介護の状態であっても、できるだけADLの機能を回復し維持し続けて豊かな生活をすることが望まれます。
いつまでも快適な環境のなかで文化に接し、家族・友人・地域のひとびととの良好な交流があり、学習意欲や探究心を回復・維持することができる、つまりQOL( Quality of Life 生活の質 )を低下させず、生きがいのある日々を過ごせることは、全ての高齢者の願いであるといっても過言ではありません。それにできるだけ近づき、実現可能にするためには、脳・心・からだの老化予防のために、正しい方法で日常生活動作をすることや行動体力を回復し維持することが重要です。ADL体操(ADL対応型高齢者体操)は、さまざまな障害やADLレベルに対応して動作が回復・維持できるように配慮し、認知症予防にもなる運動療法なのです。
研究会会長 大久保洋子は、30年以上にわたって福祉先進国スウェーデンの高齢者福祉史研究をするかたわら、自立高齢者から障害や疾病を有する高齢者まで、つまり全ての高齢者が実践可能な介護予防・自立支援・脳の活性化のための体操であるPG (Pensioners Gymnastics ペンショナーズ ジムナスティクス 年金受給者つまり高齢者の体操)に着目し、その方法と効果を研究してきました。
そして、わが国の高齢者に対応できる理念と指導内容・方法を構築し、1990年(平成2年)には、「ADL対応型高齢者体操研究会」を設立し、思いを同じくする仲間(研究会会員)と共に、高齢者の介護予防と自立支援・促進のために社会的活動を続けてまいりました。
本研究会は、ひとの老化や障害を身体的・精神的・社会的側面から研究し、吐く息を重視した無理のない動きによってからだや脳への血流を促して酸素を送り、高齢者の運動機能レベルや障害に対応するADL機能の回復・維持と脳の活性化のための体操指導法の普及を目的として活動を続けています。
全国各地に点在している会員の殆どが、研究会の公認指導者または上級公認指導者として、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護・介護予防デイサービスセンター、地域福祉・生涯学習スポーツ振興関連事業、福祉レクリエーションなどの指導現場で高齢者の方々とふれあい、ADL体操の指導と普及を目指して活動しています。
本研究会は、地域や介護関連施設において日頃から高齢者に接しておられる方々にADL体操を指導していただき、醸成されていく効果を体験していただけることが最も重要だと思っております。デイサービスセンター・高齢者介護施設の職員の方々や、地域で「高齢者の生きがいと健康づくり推進事業」や高齢者の自立支援プログラムを指導されている方々に、ADL体操の理念と効果を理解して頂、さまざまな身体的状況にある高齢者の指導法を学び、それぞれの福祉現場と身近な地域での高齢者の笑顔・笑い声・いつの間にか向上するADLレベルを体験していただくお手伝いをしたいと願っています。